東京高等裁判所 平成11年(行ケ)317号 判決 2000年10月24日
原告
サムサン エレクトロニクス シーオー.,エルティーディー
代表者
【A】
訴訟代理人弁理士
【B】
被告
特許庁長官【C】
指定代理人
【D】
【E】
【F】
【G】
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30日と定める。
事実及び理由
第1原告の求めた裁判
「特許庁が平成8年審判6213号事件について平成11年3月29日にした審決を取り消す。」との判決。
第2事案の概要
1 特許庁における手続の経緯
原告は、平成3年4月25日、名称を「ストレージセルアレイと周辺回路をもつ不揮発性半導体メモリー装置の製造方法及びその構造」とする発明(本願発明)につき特許出願をしたが(特願平3-121801号。優先権主張1990年9月3日大韓民国)、平成8年1月18日拒絶査定を受けたので、平成8年4月30日審判を請求し、平成8年審判第6213号事件として審理されたが、平成11年3月29日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決があり、その謄本は平成11年6月2日原告に送達された。
2 本願発明の要旨(請求項1記載の発明(本願第1発明)の要旨)
ストレージセル領域と周辺回路領域とを持ち、素子間分離のためのフィールド酸化膜を形成した半導体基板で、ストレージセル領域にはフローティングゲート形トランジスタからなるメモリセルを形成し、周辺回路領域にはMOSトランジスタを形成する不揮発性半導体メモリー装置の製造方法において、
前記基板上面に第1絶縁膜を形成した上に第1導電層を形成し、そしてストレージセル領域のワードライン方向に平行に配列され且つビットライン方向に伸張する第1マスクパタンを形成して露出した部分の第1導電層を選択蝕刻する第1工程と、
この第1工程後の基板上面に下部酸化膜と窒化膜と上部酸化膜とを順次形成してO-N-O絶縁層とする第2工程と、
この第2工程で形成されたストレージセル領域以外のO-N-O絶縁層を除去してから第2絶縁膜を形成する第3工程と、
この第3工程後の基板上面に第2導電層を形成する第4工程と、
周辺回路領域を覆い、そしてストレージセル領域ではワードライン方向に伸張しかつビットライン方向に平行に配列される第2マスクパタンを形成して、該ストレージセル領域中の露出した部分の前記第2導電層、O-N-O絶縁層、及び第1導電層を選択蝕刻し、該第1導電層をフローティングゲート、O-N-O絶縁層を誘電膜、第2導電層をコントロールゲートとしたメモリセルのパタンを形成する第5工程と、
ストレージセル領域を保護しておいて周辺回路領域の第2導電層を選択蝕刻して前記第2絶縁膜をゲート絶縁膜としたMOSトランジスタのゲートを形成する第6工程と、
を実施するようにしたことを特徴とする製造方法。
3 審決の理由の要点
(1) 先願明細書(第4図(a)ないし(c)は、本判決別紙先願図面参照)原査定における拒絶の理由において引用された、本件出願の日前の他の出願であって、その出願後に公開された特願平2-40911号(平成2年2月23日出願、特開平3-245566号公報(平成3年11月1日公開)参照)の願書に最初に添付した明細書又は図面(先願明細書と総称)には、
「第2図並びに第3図は、本発明の一実施例に係わる不揮発性半導体記憶装置を・・・不揮発性メモリ装置に適用したものである。ここで、第2図は、前記不揮発性メモリ装置のチップ全体の平面概略図、第3図は、前記第2図のⅠ-Ⅰ′線に沿う断面図の一例であって、p型ウェル401が、メモリセルの複数のブロック、又は全てのメモリセルのブロックを含んで形成されているものである。なお、311はメモリセルマトリックス、312は周辺回路、313-1~313-nはブロック、314は昇圧回路をそれぞれ示している。」(公開公報5頁左下欄16行~右下欄7行)及び
「第4図(a)乃至(c)は、前記第3図の不揮発性メモリ装置の製造方法について詳細に示すものである。
まず、同図(a)に示すように、n型のシリコン基板400に、メモリセル領域のp型ウェル401と周辺回路領域のp型ウェル402をそれぞれ形成する。周辺回路領域のp型ウェル402には、さらにn型ウェル403を形成する。また、全面に100Å程度の第1のシリコン酸化膜404を成長させた後、続けて第1の多結晶シリコン層405を堆積形成する。次に、同図(b)に示すように、公知のフォトリソグラフィー技術を用いて、第1の多結晶シリコン層405のパターニングを行い、浮遊ゲート406となる領域に第1のシリコン酸化膜404及び第1の多結晶シリコン層405を残存させる。また、第1の多結晶シリコン層405上には、層間絶縁膜としてシリコン酸化膜とシリコン窒化膜との複合膜407を形成する。さらに、周辺回路領域に形成された複合膜407を除去した後、周辺回路におけるトランジスタのゲート絶縁膜となる第2のシリコン酸化膜408を成長させる。また、全面に第2の多結晶シリコン層409を堆積形成する。この後、公知のフォトリソグラフィー技術を用いて、メモリセル部のパターニングを行い、2層の多結晶シリコンを順次エッチングして自己整合した2層ゲート構造410を形成する。また、周辺回路領域では、第2の多結晶シリコン409をパターニングしてトランジスタのゲート411を形成する。次に、同図(c)に示すように、メモリセルのソース412、ドレイン413となるn+型領域を、例えばヒ素(As)をイオン注入することによって形成し、・・・」(6頁左下欄1行~右下欄12行)(記載A)
が第2~4図と共に記載されている。
ところで、上記の記載Aには「浮遊ゲート406となる領域に第1のシリコン酸化膜404及び第1の多結晶シリコン層405を残存させる。」との記載が認められ、一見この時点で浮遊ゲートの四辺すべてがパターニング形成されるかのように読み取れるが、「2層の多結晶シリコンを順次エッチングして自己整合した2層ゲート構造410を形成する。」なる記載によれば、この時点では第1の多結晶シリコン層405は第2の多結晶シリコン層409をパターニングして得られるコントロールゲート(ワードライン)の側面と一緒にエッチングされるのであるから、この時点では第1の多結晶シリコン層405はコントロールゲートの側面と同じ側面のみがエッチングされることとなる。よって、「浮遊ゲート406となる領域に第1のシリコン酸化膜404及び第1の多結晶シリコン層405を残存させる。」時点では、第1の多結晶シリコン層405はコントロールゲートの側面と垂直な方向のみがエッチングされるとみるのが相当である。また、上記記載Aの「同図(b)に示すように、公知のフォトリソグラフィー技術を用いて、第1の多結晶シリコン層405のパターニングを行い、浮遊ゲート406となる領域に第1のシリコン酸化膜404及び第1の多結晶シリコン層405を残存させる。また、第1の多結晶シリコン層405上には、層間絶縁膜としてシリコン酸化膜とシリコン窒化膜との複合膜407を形成する。」なる記載においては、第1の多結晶シリコン層405のパターニングと層間絶縁膜の形成とでどちらの工程が先なのか一見不明であるが、もし、層間絶縁膜の形成工程が第1の多結晶シリコン層405のパターニング工程より先であるのなら、層間絶縁膜をそのままにして第1の多結晶シリコン層405のみパターニングしなければならないこととなるが、層間絶縁膜に何ら手を加えずに第1の多結晶シリコン層405のみパターニングすることは不可能である。
よって、第1の多結晶シリコン層405のパターニング工程が層間絶縁膜の形成工程より先であることは明らかである。上記記載Aの「第1の多結晶シリコン層405上には、層間絶縁膜としてシリコン酸化膜とシリコン窒化膜との複合膜407を形成する。」なる記載から、一見複合膜407は第1の多結晶シリコン層405上のみに形成されるようにみえるが、「周辺回路領域に形成された複合膜407を除去した後」と周辺回路にも層間絶縁膜である複合膜が形成されることからみて、シリコン基板の全表面に複合膜407が形成されるとみるのが相当である。上記記載Aの「この後、公知のフォトリソグラフィー技術を用いて、メモリセル部のパターニングを行い、2層の多結晶シリコンを順次エッチングして自己整合した2層ゲート構造410を形成する。」なる記載からは、2層の多結晶シリコンの間の複合膜はこの時点で自己整合的にエッチングされるのか否か不明であるが、上記記載Aの全記載からみて複合膜もこの時点で自己整合的にエッチングされるとみるのが相当である。一般にエッチングのためにはエッチングされる領域以外の領域をマスク等を用いて保護すること及び素子間分離のためのフィールド酸化膜を必要とすることは明らかであり、また先願明細書記載のような不揮発性メモリ装置においてはワードラインと直交する方向にビットラインが配置されているものである。
してみると、先願明細書には、メモリセル領域と周辺回路領域とを持ち、素子間分離のためのフィールド酸化膜を形成した半導体基板で、メモリセル領域にはフローティングゲート形トランジスタからなるメモリセルを形成し、周辺回路領域にはMOSトランジスタを形成する不揮発性メモリー装置の製造方法において、前記基板上面に第1のシリコン酸化膜を形成した上に第1の多結晶シリコン層を形成し、そしてメモリセル領域のワードライン方向に平行に配列されかつビットライン方向に伸張する第1マスクパタンを形成して露出した部分の第1導電層を選択蝕刻する第1工程と、この第1工程後の基板上面に酸化膜と窒化膜とを順次形成してO-N複合膜とする第2工程と、この第2工程で形成された周辺回路領域のO-N複合膜を除去してから第2のシリコン酸化膜を形成する第3工程と、この第3工程後の基板上面に第2の多結晶シリコン層を形成する第4工程と、周辺回路領域を覆い、そしてメモリセル領域ではワードライン方向に伸張しかつビットライン方向に平行に配列される第2マスクパタンを形成して、該メモリセル領域中の露出した部分の前記第2の多結晶シリコン層、O-N複合膜、及び第1の多結晶シリコン層を選択蝕刻し、該第1の多結晶シリコン層をフローティングゲート、O-N複合膜を誘電膜、第2の多結晶シリコン層をコントロールゲートとしたメモリセルのパタンを形成する第5工程と、メモリセル領域を保護しておいて周辺回路領域の第2の多結晶シリコン層を選択蝕刻して前記第2のシリコン酸化膜をゲート絶縁膜としたMOSトランジスタのゲートを形成する第6工程と、を実施するようにしたことを特徴とする不揮発性メモリー装置の製造方法が記載されているものと認められる。
(2) 審決のした対比
本願第1発明と先願明細書記載の発明とを対比すると、先願明細書記載の発明の「メモリセル領域」、「第1のシリコン酸化膜」、「第1の多結晶シリコン層」、「第2のシリコン酸化膜」及び「第2の多結晶シリコン層」は、それぞれ本願第1発明の「ストレージセル領域」、「第1絶縁膜」、「第1導電層」、「第2絶縁膜」及び「第2導電層」に相当するから、本願第1発明と先願明細書記載の発明とは「ストレージセル領域と周辺回路領域とを持ち、素子間分離のためのフィールド酸化膜を形成した半導体基板で、ストレージセル領域にはフローティングゲート形トランジスタからなるメモリセルを形成し、周辺回路領域にはMOSトランジスタを形成する不揮発性半導体メモリー装置の製造方法において、
前記基板上面に第1絶縁膜を形成した上に第1導電層を形成し、そしてストレージセル領域のワードライン方向に平行に配列されかつビットライン方向に伸張する第1マスクパタンを形成して露出した部分の第1導電層を選択蝕刻する第1工程と、
この第1工程後の基板上面に層間絶縁膜を形成する第2工程と、
この第2工程で形成されたストレージセル領域以外の層間絶縁膜を除去してから第2絶縁膜を形成する第3工程と、
この第3工程後の基板上面に第2導電層を形成する第4工程と、
周辺回路領域を覆い、そしてストレージセル領域ではワードライン方向に伸張しかつビットライン方向に平行に配列される第2マスクパタンを形成して、該ストレージセル領域中の露出した部分の前記第2導電層、層間絶縁膜、及び第1導電層を選択蝕刻し、該第1導電層をフローティングゲート、層間絶縁膜を誘電膜、第2導電層をコントロールゲートとしたメモリセルのパタンを形成する第5工程と、
ストレージセル領域を保護しておいて周辺回路領域の第2導電層を選択蝕刻して前記第2絶縁膜をゲート絶縁膜としたMOSトランジスタのゲートを形成する第6工程と、
を実施するようにしたことを特徴とする製造方法」の点で一致するが、層間絶縁膜の形成工程が、本願第1発明においては、下部酸化膜と窒化膜と上部酸化膜とを順次形成してO-N-O絶縁層を形成する工程であるのに対して、先願明細書記載の発明においてはシリコン酸化膜とシリコン窒化膜との複合層を形成する工程である点で両者は一応相違するものと認められる。
(3) 審決のした対比判断
前記相違点につき検討する。
不揮発性半導体メモリー装置において層間絶縁膜の形成工程として下部酸化膜と窒化膜と上部酸化膜とを順次形成してO-N-O絶縁層を形成する工程は、特開昭62-73774号公報、特開昭62-200755号公報、特開平2-188969号公報及び特開昭64-89372号公報に示すように周知であり、先願明細書記載の発明における層間絶縁膜の形成工程として下部酸化膜と窒化膜と上部酸化膜とを順次形成してO-N-O絶縁層を形成する工程を採用するか否かは単なる設計事項にすぎないものと認められる。したがって、上記相違点は実質的相違点とは認められない。
なお、原告は、第2シリコン酸化膜形成時に保護膜を利用せず、工程が減少すると主張するが、請求項1には単に「この第2工程で形成されたストレージセル領域以外の層間絶縁膜を除去してから第2絶縁膜を形成する第3工程と」と記載されているのみであり、ストレージセル領域をマスクしないで第2シリコン酸化膜(第2絶縁膜ではなく)を形成するとは記載されていないのであるから、上記主張は特許請求の範囲に基づかない主張である。また、その他種々効果を主張するが、これらの効果はO-N-O膜が当然有する効果にすぎない。
(4) 審決のむすび
本願第1発明は、先願明細書に記載された発明と同一であり、しかも、本願第1発明の発明者が先願明細書記載の発明の発明者と同一であるとも、また本件出願時に、その出願人が上記他の出願の出願人と同一ではないから、特許法29条の2第1項の規定により特許を受けることができない。そうである以上、他の発明について検討するまでもなく本件出願は拒絶されるべきものである。
第3原告主張の審決取消事由
審決は、先願明細書記載の発明と本願第1発明との間にある審決認定の相違点とは別の相違点(原告主張相違点1、2)を看過し(取消事由1、2)、審決認定の相違点についての判断を誤ったものであり(取消事由3)、また本願第2ないし第8発明について審理することなく拒絶したものであるから(取消事由4)、違法として取消されるべきである。
1 原告主張相違点1の看過(取消事由1)
(1) 審決は、先願明細書記載の発明は「第1の多結晶シリコン層405のパターニングと層間絶縁膜の形成とではどちらの工程が先なのか一見不明である」として、工程順序について先願明細書は明示していないことを認めながら、「第1の多結晶シリコン層405のパターニング工程が層間絶縁膜の形成工程より先であることは明らかである。」と認定し、その理由として「もし、層間絶縁膜の形成工程が第1の多結晶シリコン層405のパターニング工程より先であるのなら、層間絶縁膜をそのままにして第1の多結晶シリコン層405のみパターニングしなければならないことになるが、層間絶縁膜に何ら手を加えずに第1の多結晶シリコン層405のみパターニングすることは不可能である。」と認定しているが、誤りである。
先願明細書では、シリコン基板400上に全面に堆積形成された第1の多結晶シリコン層は符号405を付して示され、パターニングされた浮遊ゲートは符号406を付して示されている。そして、先願明細書には「第1の多結晶シリコン層405上には、層間絶縁膜としてシリコン酸化膜とシリコン窒化膜との複合膜407を形成する。」(6頁左下欄下から5行ないし3行)と記載されているところから、パターニング前の第1の多結晶シリコン層405上に複合膜407を形成した後、この複合膜407と第1の多結晶シリコン層405とを同時にパターニングし、浮遊ゲート406を形成したものと判断するのが妥当である。
(2) 審決の上記誤りの点を前提に本願第1発明と先願明細書記載の発明とを対比すると、審決が挙げた相違点のほかに、「先願明細書記載の発明においては複合膜407は浮遊ゲート406の上面のみに存在するのに対し、本願第1発明においてはO-N-O絶縁膜85はフローティングゲート46の上面のみならず側面にも存在している」ことも、相違点となる(原告主張相違点1)。そして、原告主張相違点1によって、先願明細書記載の発明ではフローティングゲートの上面のみがキャパシタンスに寄与しているのに対し、本願第1発明では上面のみならず側面までもキャパシタンスに寄与することになる。
審決は、原告主張相違点1を看過したものである。
(3) 被告は、先願明細書記載の発明においても、複合膜407は、浮遊ゲート406の上面のみならず側面にも存在しており、原告主張相違点1は存在しない、と主張する。
しかしながら、先願明細書第4図(b)を参照すれば、浮遊ゲートは符号406を付して示されていること、そしてこの浮遊ゲート406は堆積形成された第1の多結晶シリコン層405をパターニングして形成されることは疑いの余地のない事実であり、先願明細書記載の複合膜407は、浮遊ゲート406の上面のみに存在し、側面に存在しないことは明らかである。
2 原告主張相違点2の看過(取消事由2)
(1) 審決は「素子間分離のためのフィールド酸化膜を必要とすることは明らかであり」とし、先願明細書記載の発明でもフィールド酸化膜を素子間分離に使用していると認定しているが、先願明細書記載の発明において素子間分離が必要であるにしても、先願明細書及び図面には、その素子間分離の方法としてフィールド酸化膜を形成することの記載はない。
本願第1発明は、「フィールド酸化膜72に側面端部が乗りかかるようにフローティングゲート46を形成することができるため、ストレージセルトランジスタの特性に影響を与えることなくフローティングゲート46の側面にO-N-O絶縁膜85を覆い被せることができ、キャパシタンスの増大に寄与することができる」のに対して、先願明細書記載の発明では、この構成は存在しない。したがって、この点も相違点であり(原告主張相違点2)、審決は、この相違点も看過したものである。
(2) 被告は、本願第1発明は、フィールド酸化膜72に側面端部が乗りかかるようにフローティングゲート46を形成することを構成要件とはしていない旨主張するが、請求項1記載の第1工程については、本願明細書の発明の詳細な説明【0028】ないし【0031】に記載された符号付きの要素を対応させて記載すると、「前記基板(70)上面に第1絶縁膜(74)を形成した上に第1導電層(46)を形成し、そしてストレージセル領域(120)のワードライン方向(112)に平行に配列され且つビットライン方向(114)に伸張する第1マスクパターン(78)を形成して露出した部分の第1導電層(46)を選択食刻する第1工程」となる。そして、この第1工程終了後の断面構造が図3に示されている。上記第1工程の記載と図3とを参照すれば、「フィールド酸化膜72に側面端部が乗りかかるようにフローティングゲート46を形成すること」が実質的に本願第1発明の構成要件となっていることは明らかである。
(3) 被告は、フィールド酸化膜を形成することは本件出願前に普通に行われているので、先願明細書記載の発明でも素子間分離のためにフィールド酸化膜を必要とすることは明らかであるとした審決の判断に誤りはないと主張する。
しかしながら、素子間分離はフィールド酸化膜を用いる方法によらなくても実現し得るし、素子間分離方法としてフィールド酸化膜を形成することが本件出願前に普通に行われていたからといって、直ちに先願明細書の素子間分離方法もフィールド酸化膜であると結論づけることはできないから(現に、先願明細書5頁左上欄20行ないし右上欄1行には、素子分離が溝によって可能なことが記載されている。)、被告の主張は理由がない。
3 相違点についての判断の誤り(取消事由3)
(1) 審決は、審決認定の相違点について、「不揮発性半導体メモリー装置において層間絶縁膜の形成工程として下部酸化膜と窒化膜と上部酸化膜とを順次形成してO-N-O絶縁層を形成する工程は、・・・に示すように周知であり、先願明細書記載の発明における層間絶縁膜の形成工程として下部酸化膜と窒化膜と上部酸化膜とを順次形成してO-N-O絶縁層を形成する工程を採用するか否かは単なる設計事項にすぎないものと認められる。したがって、上記相違点は実質的相違点とは認められない。」と判断しているが、誤りである。
すなわち、O-N-O絶縁層を形成する工程が周知であるとしても、O-N絶縁膜を採用する先願明細書記載の発明においては、下記「膜質の観点」及び「膜厚の観点」から解決すべき課題を有することを何ら認識していないのであるから、単なる設計事項として置き換えることはできない。
(2) 「膜質の観点」
不揮発性半導体メモリ装置では、プログラム時又は消去動作時にフローティングゲートとコントロールゲートとに挟まれた絶縁層に誘導印加される双方向電圧は10~20V程度の非常に高い電圧であり、絶縁層の電界強度を双方向で同時に安定にする必要がある。一般に酸化膜に比べ、窒化膜はポリシリコンと接触した場合、界面でのトラップ密度が高いので電圧依存性が高く、電界強度が不安定となる。そこでポリシリコンで形成されるフローティングゲート及びコントロールゲートには窒化膜が直接接しないような構造を用いる必要がある。このため窒化膜を酸化膜で挟み込んだO-N-O絶縁膜を採用する必要がある。
O-N-O膜の代わりにO-N膜を使用した場合、窒化膜の上層には酸化膜がなく、あるいは十分な厚さではないため、コントロールゲートと窒化膜との間の不安定な格子構造の差を緩和させることができず、リーク電流が増加する。N-O膜を使用した場合、フローテイングゲートと窒化膜とが直接接触するので、リーク電流はO-N膜を使用した場合よりももっと増加する。
(3) 「膜厚の観点」
(3)-1 本願第1発明は、O-N-O絶縁層の形成後に周辺回路領域の第2絶縁膜を成長させるため、周辺回路領域の第2絶縁膜の膜厚の調整を極めて容易に行えるだけでなく、既に形成されたO-N-O絶縁膜の膜厚をほとんど変化させることはない。すなわち、第2絶縁膜の形成に際しては、周辺回路領域の露出した基板の上面のみならず、O-N-O絶縁膜の上部酸化膜に対しても酸化工程が施されることになるが、この場合、O-N-O絶縁膜の上部酸化膜には、更なる酸化膜が成長することはほとんどない。したがって、O-N-O絶縁膜の厚さに影響を与えることなく、第2絶縁膜の膜厚を所望の厚さに制御することができる。すなわち、本願第1発明では、膜厚の観点から考えてO-N-O絶縁膜と第2絶縁膜とを正確に制御していることになる。
これに対し、先願明細書記載の発明では、O-N絶縁膜を使用しているため、周辺回路領域のゲート酸化膜408を形成するときに酸化工程が施されることとなり、成長速度は異なるものの、窒化膜(複合膜407)の上面に酸化膜が形成され、複合膜407の膜厚が変化してしまう。そこで、あらかじめ窒化膜の上面に形成される酸化膜の厚さを膜質の観点から見込んで、周辺回路領域のゲート酸化膜408を形成する条件を設定することが考えられるが、窒化膜上に形成される上部酸化膜の厚さは、少なくとも30~40Å以上の膜厚が必要となる。この程度の膜厚を成長させようとすると、周辺回路領域の露出したシリコン基板の上面には800Å以上の厚いゲート酸化膜408が成長してしまう。不揮発性半導体メモリにおいて、周辺回路のMOSトランジスタのゲート酸化膜はますます薄くなっていく趨勢にあるので、これでは実用に耐えない。
(3)-2 被告は、本願第1発明では第2絶縁膜の形成方法を規定しておらず、本願第1発明の第2絶縁膜の形成方法には「酸化工程を施す」方法以外の絶縁膜形成方法も含み、その場合には、先願明細書記載の発明に係る原告主張の問題点は本願第1発明にも存在することになる、と主張する。
しかしながら、本願第1発明は、第2絶縁膜がストレージセル領域においてはコントロールゲートとなり、周辺回路領域においてはMOSトランジスタのゲートとなることは、その特許請求の範囲の記載から明らかである。そして、少なくともMOSトランジスタのゲートとして使用可能な絶縁膜は、本件出願時においては酸化工程を施こすことによって形成された、いわゆる熱酸化膜以外には知られておらず、例えば真空蒸着法、スパッタ法、CVD法を採用して形成された絶縁膜は使用し得ないことは技術的常識となっていたので、本願第1発明においても、第2絶縁膜は実質的に熱酸化膜を意味する。
また、本願第1発明に関して、O-N-O絶縁層上に更なる酸化膜が成長していないことは、特許請求の範囲の記載「・・・第2マスクパタンを形成して、該ストレージセル領域中の露出した部分の前記第2導電層、O-N-O絶縁層、及び第1導電層を選択蝕刻し、該第1導電層をフローティングゲート、O-N-O絶縁層を誘電膜、第2導電層をコントロールゲートとしたメモリセルのパタンを形成する第5工程」から明らかである。
(3)-3 仮に、被告が主張するように第2絶縁膜がO-N-O絶縁層上に更なる酸化膜が成長するものも含むのであるならば、O-N-O絶縁層上には第2絶縁膜が形成されていなくてはならないため、前述の第5工程の記載は、「・・・第2マスクパタンを形成して、該ストレージセル領域中の露出した部分の前記第2導電層、前記第2絶縁膜、O-N-O絶縁層、及び第1導電層を選択蝕刻し、該第1導電層をフローティングゲート、前記第2絶縁膜とO-N-O絶縁層とを誘電膜、第2導電層をコントロールゲートとしたメモリセルのパタンを形成する第5工程」となっていなくてはならないはずである。このような記載となっていないのは、本願第1発明においては、第2絶縁膜を形成する第3工程は、熱酸化工程であり、しかも第2絶縁膜の形成時にはO-N-O絶縁層上には実質上更なる酸化膜が成長しないからである。
(3)-4 被告は、先願明細書に記載の複合膜が上層が酸化(SiO2)膜で下層が窒化(Si3N4)膜とから成る構造(N-O膜)も含むものであり、そうすると層間絶縁膜の上層がシリコン酸化膜となるから、第2絶縁層を熱酸化によって形成するとしても複合膜の膜厚が変化することはない、と主張する。
しかし、N-O膜を層間絶縁膜として使用した場合には、リーク電流が一層大きくなり、到底使用に耐えず、先願明細書に記載の複合膜はN-O膜を含むものではない。
4 他の発明についての審理不尽(取消事由4)
審決は、「本願第1発明について特許を受けることができない以上、他の発明については検討するまでもなく本件出願は拒絶されるべきものである。」と判断しているが、特許請求の範囲には8個の発明が記載されており、それぞれの発明はその記載形式が従属形式であるか独立形式であるかを問わず、その構成要件を異にしているのであるから、それぞれの発明についてその特許要件を審理すべきものである。
本件出願についての拒絶査定は、本件出願は請求項1ないし9についていずれも拒絶理由が解消していないとしている。すなわち、請求項1の発明(第1の発明)についてのみ拒絶理由があることをもって、他の請求項に係る発明について判断することなく拒絶がされたわけではない。そもそも、審査と審判とは続審関係にあり(特許法158条、159条)、審判では、審査においてした手続を土台として審理を行い、原査定が維持できるか否かを審理するものである。
拒絶査定不服の審判請求人は、原査定において示された各請求項に係る発明についての審査官の判断に対し、これを不服として審判官の判断を求めて審判請求を行っているのであるから、その審理においては審査官による拒絶査定の理由が正当であるかどうかを中心として行われなければならない。すなわち、審査の場合と同様に、請求項が複数あるときはすべての請求項につき拒絶理由の有無を職権で調査し、その結果、原査定が維持できるのであれば、「審判の請求は成り立たない」として請求を棄却することができるのである。
ちなみに、審判請求に際して請求項の数に応じた審判請求手数料を支払うことが定められているのは(特許法195条)、請求項ごとの審理を手数料の面から保証したものである。
第4審決取消事由に対する被告の反論
1 取消事由1(相違点1の看過)に対し
先願明細書に記載された発明においても、複合膜407は浮遊ゲート406の上面のみならず側面にも存在しており、原告主張相違点1は存在しない。先願明細書記載の発明と本願第1発明とでは、第1の多結晶シリコン層をパターニングした後に、複合膜を形成するという順において異なる点はない。
2 取消事由2(相違点2の看過)に対し
(1) 原告は、本願第1発明では、「フィールド酸化膜72に側面端部が乗りかかるようにフローティングゲート46を形成することができるため、ストレージセルトランジスタの特性に影響を与えることなくフローティングゲート46の側面にO-N-O絶縁膜85を覆い被せることができ、キャパシタンスの増大に寄与することができる」と主張するが、本願第1発明は、フィールド酸化膜72に側面端部が乗りかかるようにフローティングゲート46を形成することを発明の構成要件としていないから、この主張は理由がない。
(2) 原告は、請求項1の根拠となる発明の詳細な説明に記載された符号付きの要素と図3の記載を参照すれば、フィールド酸化膜72に側面端部が乗りかかるようにフローティングゲート46を形成することが、実質的に本願第1発明の構成要件となっていることは明らかである、と主張する。しかしながら、本願第1発明の構成はあくまで請求項1の記載によるのであって、「一実施例として説明」(本願明細書【0026】第3行)されている図面(図3)の記載内容を、本願第1発明の構成に欠くことができない事項として解する余地はない。
(3) 原告は、先願明細書記載の発明では素子間分離は行っていないと主張する。
しかしながら、先願明細書の5頁右下欄等で使用されている「メモリセルマトリックス」の語が、メモリセルが規則的に縦横に並んだメモリセルの集まりをいうことは明らかであり、そのことは第2図の記載からも明らかである。したがって、先願明細書の第2図のI-I′線と直交する方向にも複数のメモリセルが並んで形成されていることは明らかである。
そして、先願明細書5頁右下欄14~19行の記載からすると、少なくともメモリセルの一のブロック(例えば、313-1)を構成する複数のメモリセルは、そのすべてが第2図のI-I′と直交する方向に延在する一のウェル中に隣接して存在していることになる。
このような場合、同一ウェル中に存在する複数のメモリセルが素子間分離されていないと、隣接するメモリセルが、動作時に互いに影響を及ぼしあい、個々のメモリセルの動作が、隣接する他のメモリセルの誤動作を引き起こす場合があるであろうことは明らかであり、このような不具合の発生を避けるために、先願明細書記載の発明において、個々のメモリセルが少なくとも同一ウェル中に存在する、隣接する他のメモリセルと、素子間分離されていることは明らかである。
そして、フローティングゲート形トランジスタから成るメモリセルを素子間分離する方法として、フィールド酸化膜を形成することは、特開平2-111075号公報(乙第1号証)の特許請求の範囲の請求項1、4頁右下欄16行~5頁左上欄1行、第1図、第3図、第5図(a)、特開平1-208866号公報(乙第2号証)の特許請求の範囲、第1図、第2図、特開昭56-50578号公報(乙第3号証)の特許請求の範囲の請求項1、5頁左上欄13行~右上欄7行、Fig.4、超LSIデバイスハンドブック(株式会社サイエンスフォーラム発行。乙第4号証)の図-49にも示されるように、本件出願前普通に行われていることである。
(4) 原告は、先願明細書(5頁左上欄20行~右上欄1行)には素子間分離が溝によって可能なことが記載されていることを指摘する。
しかしながら、原告が引用する先願明細書の記載からも明らかなように、「溝」は複数の不純物領域を分離して、分離された各不純物領域毎に印加する電圧等を制御することにより、ブロック消去等を可能とするためのものである。すなわち、「溝」が、同一ブロック内において隣接して存在する不揮発性記憶素子を互いに素子間分離するために使用されることはない。なぜなら、同一ブロック内に形成されている不揮発性記憶素子間を「溝」により素子間分離すると、同一ブロック内に存在する複数の不揮発性記憶素子を一括して扱ってブロック消去することが不可能となるからである。
3 取消事由3(審決認定の相違点についての判断の誤り)に対し
(1) 「膜質の観点」の主張に対し
原告は、窒化膜はポリシリコンと直接接触すると電界強度が不安定となるから、フローティグゲート及びコントロールゲートをポリシリコンで形成する場合には、窒化膜が直接接しないように酸化膜で挟み込んだO-N-O構造とする必要がある、と主張する。
しかしながら、本願第1発明は、フローティングゲート及びコントロールゲートとして、単に「第1導電層」、「第2導電層」と規定するのみで、ポリシリコンで形成するとは規定していないから、ポリシリコンであることを前提とした主張は、特許請求の範囲の記載に基づかない主張である。
(2) 「膜厚の観点」の主張に対し
(2)-1 原告は、先願明細書記載の発明ではO-N絶縁膜を使用しているため、周辺回路領域のゲート酸化膜408を形成するときに酸化工程が施されると、窒化膜(複合膜407)の上面に酸化膜が形成され、複合膜407の膜厚が変化する、と主張する。
しかしながら、仮に、先願明細書記載の発明において原告が主張するような問題点があるとしても、第2絶縁膜が酸化工程を施すことにより形成されるとの原告の主張は特許請求の範囲の記載に基づかないものであるから、本願第1発明の前記第2絶縁膜を形成する方法は「酸化工程を施す」方法以外の絶縁膜形成方法も含み、その場合には、先願明細書記載の発明に係る原告主張の前記間題点は、本願第1発明にも存在することになる。
(2)-2 原告は、先願明細書記載の発明では、窒化膜(複合膜407)の上面に酸化膜が形成され、複合膜の膜厚が変化してしまう、と主張する。しかしながら、先願明細書には「シリコン酸化膜とシリコン窒化膜との複合膜407」と記載されており、シリコン酸化膜とシリコン窒化膜のどちらが上層であるかは記載されていない。
不揮発性半導体メモリ装置におけるコントロールゲートとフローティングゲートとの間の層間絶縁膜の構造として、上層のSiO2膜と下層のSi3N4膜とから成る構造は、本件出願前に知られている(特開昭59-55071号公報=乙第7号証)。してみれば、先願明細書の複合膜407は上層がシリコン酸化膜である場合を含むことは明らかである。そうすると、層間絶縁膜の上層がシリコン酸化膜であることになるから、周辺回路領域に第2絶縁層を熱酸化によって形成する工程によっては、先願明細書の複合膜407の膜厚が変化してしまうことはない。すなわち、先願明細書記載の発明も、周辺回路領域の第2絶縁層を熱酸化によって形成するのであれば、必ずしも「複合膜407の上面に酸化膜が形成されて、複合膜の膜厚が変化してしまう。」ということにはならない。
したがって、先願明細書記載の発明では、窒化膜(複合膜407)の上面に酸化膜が形成され、複合膜の膜厚が変化してしまう、という原告の主張も理由がない。
(2)-3 原告は、少なくともMOSトランジスタのゲートとして使用可能な絶縁膜は、本願第1発明の出願時においては酸化工程を施すことによって形成された、いわゆる熱酸化膜以外には知られておらず、例えば真空蒸着法、スパッタ法、CVD法を採用して形成された絶縁膜は使用し得ないことは技術的常識となっていたので、本願第1発明においても、第2絶縁膜は実質的に熱酸化膜を意味するものである、と主張する。
しかしながら、MOSトランジスタのゲート酸化膜を形成する方法として、例えば化学気相成長(CVD)法が本件出願前に知られており、本願第1発明において、第2絶縁膜を熱酸化膜であると限定して解釈する余地はない。
(2)-4 原告は、本願第1発明においては周辺回路領域の第2絶縁膜の形成に際して、O-N-O絶縁膜の表面に第2絶縁膜は形成されず、O-N-O絶縁膜の膜厚をほとんど変化させることはない、と主張する。
しかしながら、MOSトランジスタのゲート酸化膜を形成する方法として、化学気相成長(CVD)法が本件出願前に知られており、具体的な形成する方法を特許請求の範囲において規定していない本願第1発明には、CVD法によって周辺回路領域の第2絶縁膜の形成する方法も含まれる。そして、CVD法によって絶縁膜を形成する場合には、酸化膜上にも成長することが知られているから、本願第1発明において、周辺回路領域の第2絶縁膜をCVD法によって形成する場合には、O-N-O絶縁膜の上部酸化膜上に酸化膜が形成され、O-N-O絶縁膜の膜厚が変化することは明らかである。
(2)-5 原告は、第2絶縁膜の形成に際しては、周辺回路領域の露出した基板の上面のみならず、O-N-O絶縁膜の上部酸化膜に対しても酸化工程が施されることになるが、O-N-O絶縁膜の上部酸化膜には、更なる酸化膜が成長することはほとんどないから、正確に制御することができる旨主張する。
しかしながら、本願第1発明は、「第2絶縁膜を形成する」と規定するのみで、露出した基板の上面及びO-N-O絶縁膜の上部酸化膜に対して酸化工程を施すことにより第2絶縁膜を形成するとは規定していない。一方、絶縁膜の形成方法としては、露出した基板の上面に対して酸化工程を施すほかに、真空蒸着法、スパッタ法、CVD法等種々の方法が知られており、前記第2絶縁膜をこれらの方法で形成した場合においても、上部酸化膜に更なる酸化膜が成長することはないとは、必ずしもいえない。
(2)-6 原告は、本願請求項1の第5工程の記載にO-N-O絶縁層上に形成された第2絶縁膜についての言及がないのは、本願第1発明においてはO-N-O絶縁層上には更なる酸化膜が成長しないからであると主張する。
しかしながら、第2絶縁膜はMOSトランジスタのゲート絶縁膜となるものであるから当然酸化膜であり、O-N-O絶縁層の上層もまた酸化膜である。そして、酸化膜の上に酸化膜を形成するということは、単に酸化膜を成長させるということにすぎない。
すなわち、本願第1発明の第3工程における第2絶縁膜形成工程において、O-N-O絶縁層の上部酸化膜上に酸化膜が成長した場合においては成長した酸化膜はO-N-O絶縁層の上部酸化膜と一体となり、O-N-O絶縁層の上部酸化膜の膜厚を増大させたことになる。
したがって、本願請求項1の第5工程の記載に、O-N-O絶縁層上に形成された第2絶縁膜についての言及がないからといって、本願第1発明においてO-N-O絶縁層上に更なる酸化膜が成長していないということはできない。
(2)-7 先願明細書には、「周辺回路領域に形成された複合膜407を除去した後、周辺回路におけるトランジスタのゲート絶縁膜となる第2のシリコン酸化膜408を成長させる。」(公開公報6頁左下欄18行~右下欄1行)とある。すなわち、先願明細書記載の発明は、複合膜の形成後に複合膜の形成工程とは別工程で周辺回路領域の第2絶縁膜を成長させている。
したがって、先願明細書記載の発明も、周辺回路領域の第2絶縁膜の膜厚の調整を極めて容易に行えることは明らかであるから、この点において本願第1発明と先願明細書記載の発明に差はない。
4 取消事由4(他の発明についての審理不尽)について
特許法49条によれば、拒絶は特許請求の範囲の請求項単位ではなく、出願単位で行うものとされている。
したがって、本件出願において、請求項1に係る発明が特許され得ないものであるときに、請求項2ないし請求項8に係る発明について検討することなく、本件出願は拒絶されるべきものであると判断した審決に原告主張の違法はない。
第5当裁判所の判断
1 取消事由1(原告主張相違点1の看過)について
(1) 本願第1発明の特許請求の範囲には、「O-N-O絶縁膜85はフローティングゲート46の上面のみならず側面にも存在している」との記載はないので、本願第1発明と先願明細書記載の発明とは「先願明細書記載の発明においては複合膜407は浮遊ゲート46の上面のみに存在するのに対し、本願第1発明においてはO-N-O絶縁膜85はフローティングゲート406の上面のみならず側面にも存在している」点でも相違するとの主張(原告主張相違点1の主張)は、本願第1発明の特許請求の範囲の記載に基づくものではないことになり、その点で既に理由がないということができるが、なお、原告の主張するところに即して、先願明細書及び図面の記載について以下判断する。
(2) まず、第1の多結晶シリコン層405のパターニング工程と複合膜407の形成工程との順序(先後)の解釈についてみるに、甲第4号証によれば、先願明細書には、第4図(a)(b)(本判決別紙先願図面参照)と共に、発明の詳細な説明(6頁左下欄4行ないし18行)に、次の記載があることが認められる。
(ア) 「まず、同図(a)に示すように、n型のシリコン基板400に、メモリセル領域のp型ウェル401と周辺回路領域のp型ウェル402をそれぞれ形成する。周辺回路領域のp型ウェル402には、さらにn型ウェル403を形成する。また、全面に100Å程度の第1のシリコン酸化膜404を成長させた後、続けて第1の多結晶シリコン層405を堆積形成する。」
(イ) 「次に、同図(b)に示すように、公知のフォトリソグラフィー技術を用いて、第1の多結晶シリコン層405のパターニングを行い、浮遊ゲート406となる領域に第1のシリコン酸化膜404及び第1の多結晶シリコン層405を残存させる。」
(ウ) 「また、第1の多結晶シリコン層405上には、層間絶縁膜としてシリコン酸化膜とシリコン窒化膜との複合膜407を形成する。」
ここで記載(イ)と記載(ウ)についてみると、記載(イ)の前半の「第1の多結晶シリコン層405」は、直前の記載(ア)にある「全面に100Å程度の第1のシリコン酸化膜404を成長させた後、続けて第1の多結晶シリコン層405を堆積形成する」ことにより「全面に堆積形成された第1の多結晶シリコン層405」を意味し、記載(イ)の後半の「第1の多結晶シリコン層405」は「パターニングにより浮遊ゲート406となる領域に残存する第1の多結晶シリコン層405」を意味することは明らかである。そして、記載(イ)と記載(ウ)との記載順序と意味内容からみて、記載(ウ)の「第1の多結晶シリコン層405」は、その直前に用いられた記載(イ)の後半の「第1の多結晶シリコン層405」の意味(「パターニングにより浮遊ゲート406となる領域に残存する第1の多結晶シリコン層405」)で用いられているとするのが自然である。
すなわち、上記記載(ア)、(イ)、(ウ)からは、第1のシリコン酸化膜404上に第1の多結晶シリコン層405を堆積形成したものに対して、フォトリソグラフィー技術を用いて第1の多結晶シリコン層405のパターニングを行い、浮遊ゲート406となる領域に第1のシリコン酸化膜404及び第1の多結晶シリコン層405を残存させ、その後、浮遊ゲート406となる領域に残存する第1の多結晶シリコン層405上に層間絶縁膜としてシリコン酸化膜とシリコン窒化膜との複合膜407を形成する、と解釈するのが自然である。
そうすると、「第1の多結晶シリコン層405のパターニング工程が複合膜407の形成工程より先である」ことは明らかである。
(3) 前項の解釈は、下記の①ないし③の点からも裏付けることができる。
① 「次に、同図(b)に示すように、公知のフォトリソグラフィー技術を用いて、第1の多結晶シリコン層405のパターニングを行い、浮遊ゲート406となる領域に第1のシリコン酸化膜404及び第1の多結晶シリコン層405を残存させる。」との前記記載(イ)についてみると、この記載には「第1のシリコン酸化膜404及び第1の多結晶シリコン層405を残存させる」との記載はあるものの、「複合膜407を残存させる」旨の記載は見られない。
仮に原告が主張するように、「第1の多結晶シリコン層405のパターニング工程が複合膜407の形成工程より後である」とすると、複合膜407に何らの手を加えることなく、複合膜407の下部に形成されている第1の多結晶シリコン層405のみをフォトリソグラフィー技術を用いてパターニングすることは不可能であることから(この点は審決が指摘するとおりである。)、パターニング工程では複合膜もパターニングされて第1の多結晶シリコン層とともに残存することとなるのは明らかである。
したがって、原告主張のとおりだとすると、上記記載(イ)中に「第1のシリコン酸化膜404及び第1の多結晶シリコン層405を残存させる」との記載に加えて「複合膜407を残存させる」旨の記載が存在するのが自然であるのに、その記載がないのは、記載を怠ったと考えるよりは、もともと先願明細書記載の発明が「第1の多結晶シリコン層405のパターニング工程が複合膜407の形成工程より後である」との工程順序を想定していないからであるとみるべきものである。
② 仮に原告主張のように、「第1の多結晶シリコン層405のパターニング工程が複合膜407の形成工程より後である」とすれば、「また、第1の多結晶シリコン層405上には、層間絶縁膜としてシリコン酸化膜とシリコン窒化膜との複合膜407を形成する」との前記記載(ウ)は、「・・・第1の多結晶シリコン層405を残存させる」との記載(イ)の後に続くのではなく「・・・第1の多結晶シリコン層405を堆積形成する」との記載(ア)の後に続きべきものであり、先願明細書のこの部分は、「・・・第1の多結晶シリコン層405を堆積形成する。また、第1の多結晶シリコン層405上には、層間絶縁膜としてシリコン酸化膜とシリコン窒化膜との複合膜407を形成する。次に、同図(b)に示すように、公知のフォトリソグラフィー技術を用いて、第1の多結晶シリコン層405のパターニングを行い、浮遊ゲート406となる領域に第1のシリコン酸化膜404、第1の多結晶シリコン層405を残存させる。」との記載となるのが自然である。
ところがこのように記載されていないのは、先願明細書記載の発明が「第1の多結晶シリコン層405のパターニング工程が複合膜407の形成工程より後である」との工程順序を想定していないからであるとみるのが自然である。
③ 先願明細書においては、前記のとおり(ア)「まず・・・n型ウェル403を形成する。また、全面に・・・堆積形成する。」(イ)「次に、・・・残存させる。」(ウ)「また、・・・複合膜407を形成する。」のように、「また」という用語が2か所で使用されている。
ここで、記載(ア)中の「また」は、「n型ウェル403を形成する」工程と「全面に100Å程度の第1のシリコン酸化膜404を成長させた後、続けて第1の多結晶シリコン層405を堆積形成する。」工程とを結びつけ、記載(ウ)の冒頭の「また」は、記載(イ)の「・・・第1の多結晶シリコン層405のパターニングを行い、・・・多結晶シリコン層405を残存させる。」工程と、記載(ウ)の「第1の多結晶シリコン層405上には、・・・複合膜407を形成する。」工程とを結びつけている。
この記載(ア)中の「また」が「n型ウェル403を形成する」工程を行い、その後に「全面に100Å程度の第1のシリコン酸化膜404を成長させた後、続けて第1の多結晶シリコン層405を堆積形成する。」工程を行うという、工程間の順序(先後)を明らかにするために使用されていることは明らかである。
そして、記載(ウ)の冒頭の「また」が記載(ア)中の「また」と異なる用法で使用されているとする理由は特段に認めることはできないから、記載(ウ)の冒頭の「また」も同様に、記載(イ)の「・・・第1の多結晶シリコン層405のパターニングを行い、・・・多結晶シリコン層405を残存させる。」工程を行い、その後に記載(ウ)の「第1の多結晶シリコン層405上には、・・・複合膜407を形成する。」という、工程間の順序(先後)を明らかにするために使用されていると解するのが極めて自然である。
(4) したがって、原告主張のように、「パターニング前の第1の多結晶シリコン層405上に複合膜407を形成した後、この複合膜407と第1の多結晶シリコン層405とを同時にパターニングし、浮遊ゲート406を形成したもの」と解釈することはできず、「第1の多結晶シリコン層405のパターニング工程が層間絶縁膜の形成工程より先であることは明らかである」とした審決の解釈に誤りはないということができる。
そして、この誤りのない審決の解釈によれば、先願明細書記載の発明において、パターニングを行った後は残存する第1の多結晶シリコン層405の側面は露出しており、この状態で複合膜407を形成すると複合膜407は残存する多結晶シリコン層405の上はもとよりその側面にも形成されることは明らかなので、「先願明細書記載の発明においては複合膜407は浮遊ゲート406の上面のみに存在するのに対し、本願第1発明においてはO-N-O絶縁膜85はフローティングゲート406の上面のみならず側面にも存在している」点(原告主張相違点1)においても相違する、とする原告の主張は理由がない。
2 取消事由2(原告主張相違点2の看過)について
(1) 原告主張相違点2は、本願第1発明が、フィールド酸化膜72に側面端部が乗りかかるようにフローティングゲート46を形成するものであることを前提に、フローティングゲート46の側面にO-N-O絶縁膜85を覆い被せることができる点において先願明細書記載の発明と異なるというものであるが、取消事由2として原告の主張する内容全体に照らすと、実質的には、先願明細書に素子間分離のためにフィールド酸化膜を使用することの記載がないことに関するものと理解されるので、以下、この観点に基づいて判断する。
(2) 本願第1発明の特許請求の範囲には、「素子間分離のためのフィールド酸化膜を形成した半導体基板で、」とあり、さらに後続して「前記基板上面に第1絶縁膜を形成した上に第1導電層を形成し、」とあることからすると、本願第1発明は、「素子間分離のためのフィールド酸化膜を形成した半導体基板」に対して「半導体基板上面に第1絶縁膜を形成した上に第1導電層を形成し、」との工程を行うものであることは明らかである。
これに対して、先願明細書には、1の(2)で認定したように、「n型シリコン基板400」に対して「また、全面に100Å程度の第1のシリコン酸化膜404を成長させた後、続けて第1の多結晶シリコン層405を堆積形成する」との工程を行うことは記載されているが、「n型シリコン基板400」が「素子間分離のためのフィールド酸化膜を形成した半導体基板」であることを示す記載はない(甲第4号証)。
この「素子間分離のためのフィールド酸化膜を形成した半導体基板」に該当する事項が先願明細書に記載されていない点につき、審決は、先願明細書記載の発明においても「素子間分離のためのフィールド酸化膜を必要とすることは明らかであり、」として、先願明細書に記載されているに等しい事項と認定したものと理解することができる。
(3) ところで、本願第1発明は、審決が認定したとおり、「不揮発性半導体メモリ装置の製造方法」にあるから、本願第1発明と対比する先願明細書記載の発明は、不揮発性半導体メモリ装置という物の構成としてではなくその製造方法の工程の観点から把握すべきである。審決が、「素子間分離のためのフィールド酸化膜を形成した半導体基板」を先願明細書に記載されているに等しい事項であると認定するに至る理由とした「素子間分離のためのフィールド酸化膜を必要とすることは明らかであり、」との認定についてみるに、不揮発性半導体メモリ装置の物の構造の観点によるものであってその製造方法の工程の観点によるものではなく、したがって上記認定に至る理由が製造方法の工程の観点から示されているとはいえないから、「素子間分離のためのフィールド酸化膜を形成した半導体基板」なる構成は先願明細書に記載されているに等しい事項であるとした審決の認定は、そのままでは是認することができない。
(4) しかしながら、乙第1号証によれば、特開平2-111075号公報には、
「・・・選択酸化法(LOCOS法)とによって、基板1の所定の主面部に帯状のフィールド絶縁膜2・・・を形成する(・・・第5図(a))。・・・表面の酸化膜18を・・・除去した後、・・・ゲート絶縁膜10を形成する。続いて・・・第1層目のポリシリコン膜19を被着し」(4頁右下欄18行~5頁左上欄12行、第5図)
との記載のあることが認められ、そこには、「選択酸化法(LOCOS法)によりフィールド絶縁膜2を形成した基板1にゲート絶縁膜10及びフローテイングゲート用ポリシリコン膜19を形成すること」が記載されている。
また、乙第2号証によれば、特開平1-208866号公報に、
「第1図(b)参照;次いで、約1000℃の高温度で酸化処理してフィールド絶縁膜6(膜厚4000~5000Å程度)を形成する。上記がLOCOS法である。
第1図(c)参照;次いで、Si3N4膜22およびSiO2膜21をエッチング除去する。第2図(a)はこの第1図(c)の平面図を示している。
第1図(d)参照;次いで、ゲート絶縁膜13を生成し、その上にCVD法によって多結晶シリコン膜からなるフローテイングゲート電極膜14を被着する。」(3頁左下欄4行~13行、第1図)
との記載があることが認められ、そこには、「酸化処理(LOCOS法)によりフィールド絶縁膜6を形成した基板にゲート絶縁膜13及びフローテイングゲート電極膜14を形成すること」が記載されている。
これらからすると、本願第1発明のようなフローテイングゲートとコントロールゲートを備える不揮発性半導体メモリ装置において、「素子間分離するフィールド酸化膜を形成した半導体基板上面に第1絶縁膜と第1導電層を形成すること」は本件出願前普通に行われていたものと認められるのであり、「素子間分離のためのフィールド酸化膜を形成した半導体基板」との事項は、周知技術の付加にすぎず新たな効果を奏するものではないものというべきである。したがって、「素子間分離のためのフィールド酸化膜を形成した半導体基板」なる構成は先願明細書に記載されているに等しい事項であるとして、この点を本願第1発明と先願明細書に記載の発明との相違点としなかった審決の認定は結論として是認することができる。
(5) そして、本願第1発明の特許請求の範囲には、原告が取消事由2において主張する「フィールド酸化膜72に側面端部が乗りかかるようにフローティングゲート46を形成すること」の記載はないから、本願明細書の発明の詳細な説明及び図面に実施例としてそれが示されているとしても、本願第1発明と先願明細書記載の発明とは「本願第1発明には、フィールド酸化膜72に側面端部が乗りかかるようにフローティングゲート46を形成することができるため、ストレージセルトランジスタの特性に影響を与えることなくフローティングゲート46の側面にO-N-O絶縁膜85を覆い被せることができ、キャパシタンスの増大に寄与することができる」点(原告主張相違点2)でも相違するとの主張は、本願第1発明の特許請求の範囲の記載に基づくものということはできず、取消事由2は理由がない。
3 取消事由3(相違点についての判断の誤り)について
(1) 「膜質の観点」に関して
(1)-1 原告は、ポリシリコンで形成されるフローティングゲート及びコントロールゲートには窒化膜が直接接しないように、窒化膜を酸化膜で挟み込んだO-N-O絶縁膜を採用する必要があると主張するが、本願第1発明の特許請求の範囲には、フローテイングゲート及びコントロールゲートに関しては、「第1導電層をフローテイングゲート、(中略)、第2導電層をコントロールゲートとしたメモリセル」との記載があるにとどまり、第1導電層及び第2導電層の材料に関する記載はない。
次に、乙第8号証及び第9号証によれば、実願昭61-23928号(実開昭62-135452号)のマイクロフィルム及び特開昭52-36476号公報に、不揮発性半導体メモリ装置においてフローテイングゲートをポリシリコンとは異なる材料であるモリブデンにより形成することが記載されていることが認められ、このことからすると、本件出願時においてフローテイングゲート及びコントロールゲートをポリシリコン以外の導電材料を用いて形成することは一般に知られていなかったとは認められない。また、甲第2号証によれば、本願明細書には「本発明の一実施例では・・・第2導電層を、すべて多結晶シリコンで形成したが、前記第2導電層を、タングステンシリサイド、チタニウムシリサイド、タンタラムシリサイド等の低抵抗導電層に代えることもできる」(段落【0047】)との記載があることも認められる。これらのことからすると、本願第1発明の第1、第2導電層の材料がポリシリコンである、とは一義的に認めることができない。
原告は、本願第1発明には「絶縁層の電界強度を双方向で同時に安定化する」との効果があると主張するが、以上のとおり、この主張は、第1、第2電導層の材料がポリシリコンであり、窒化膜を酸化膜で挟み込んだO-N-O絶縁膜を採用する必要があることを前提にするものであり、この点が特許請求の範囲の記載に基づかないものである以上、本願第1発明に原告主張の効果があるとの主張は理由がない。
(2) 「膜厚の観点」に関して
(2)-1 原告は、本願第1発明では、第2絶縁膜の形成に際しては、周辺回路領域の露出した基板の上面のみならず、O-N-O絶縁膜の上部酸化膜に対しても酸化工程が施されることになり、膜厚の観点から考えてO-N-O絶縁膜と第2絶縁膜とを正確に制御していることになると主張するが、本願第1発明の特許請求の範囲には、第2絶縁膜に関しては、「この第2工程で形成されたストレージセル領域以外のO-N-O絶縁層を除去してから第2絶縁膜を形成する第3工程と」との記載があるにとどまり、第2絶縁膜を酸化により形成することについての記載はない。
また、乙第5号証(特開昭63-313863号公報)及び乙第6号証(月刊Semiconductor World Vol5, No.12 82~88頁(1986年))によれば、MOSトランジスタのゲート酸化膜を形成する方法として、化学気相成長法(CVD法)が本件出願前に知られていることが認められるので、本願第1発明につき、第2絶縁膜を酸化により形成する構成が採用されているものと一義的に認めることはできない。
したがって、第2絶縁膜を酸化工程により形成することを前提とする「O-N-O絶縁層の上部には既に酸化膜が形成されているために更なる酸化膜が成長することはほとんどなく、O-N-O絶縁層の膜厚と第2絶縁膜の膜厚とを正確に制御することができる」との原告主張の効果をもって、本願第1発明の特許請求の範囲の記載に基づくものと認めることはできない。
(2)-2 原告は、本願第1発明の第5工程中にO-N-O絶縁層上に形成された第2絶縁膜について記載がないことは、O-N-O絶縁層上に更なる酸化膜は成長しないことを意味する、と主張する。
しかしながら、本願第1発明の第2絶縁膜の形成工程において、O-N-O絶縁層の上部酸化膜上に酸化膜が成長したときは、成長した酸化膜はO-N-O絶縁層の上部酸化膜と一体となり、O-N-O絶縁層の上部には膜厚が増大した一体となった酸化膜が残ることになる。この場合、本願第1発明の第5工程のO-N-O絶縁層の「-O」は第2絶縁膜の形成前の酸化膜と成長した酸化膜とが一体となった酸化膜を意味することになるのであり、成長した酸化膜について記載がないからといって、O-N-O絶縁層上に更なる酸化膜が成長していないと認めることはできない。また、甲第2号証によれば、本願明細書に、「前記第2絶縁膜92は、上記O-N-O絶縁層85上部の酸化膜の上面においては殆ど育たない」(段落【0038】)と記載されていることが認められるように、本願明細書における実施例においても、O-N-O絶縁層上にある程度の酸化膜の成長を認めている。
よって、原告の上記主張は理由がない。
(3) 以上のとおりであって、審決認定の相違点に関してした審決の判断の誤りがあるとして原告が主張するところはいずれも理由がない。
4 取消事由4(他の発明についての審理不尽)について
一つの特許出願に係る2以上の発明の特許要件は、請求項に係る発明ごとに判断されるが、拒絶は当該一出願についてされるものである。
したがって、本件出願の請求項1に係る発明が特許要件を欠くと判断したときには、他の請求項に係る発明について特許要件を検討することなく本件出願について拒絶すべきものであるとした審決の判断に誤りはない。
第6結論
以上のとおりであり、原告主張の審決取消事由は理由がないので、原告の請求は棄却されるべきである。
(裁判長裁判官 永井紀昭 裁判官 塩月秀平 裁判官 橋本英史)
<以下省略>